高等ムーミンをめぐる冒険

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公務員を辞めて博士課程に進学する

私は東京の私大で博士課程に在籍している。分野的には生物系で、ラボ的には免疫などの研究をしている。修士課程までは宮城県にある国立大学の理学部に通っていたが、三年ほど地方公務員として働き、仕事を辞めて博士課程に進学した。

 

理系では多くの学生が大学院に進学し、修士を取ってから就職という流れが(少なくとも自分の周りでは)多い。もちろん修士くらい取らないと企業の研究職や開発職にはつけないからという人もいると思うが、学問や研究が好きで大学院に進学した人は、少なからず就職か博士課程で悩んでいると思う。

御多分に洩れず私もその類で、4年生でラボに配属された当初は博士になると意気込んでいた。ところがどっこい色々とあって不登校になり、修士の途中でラボを変えた。変えた先では師匠の助けもあり割といい感じに研究していたが、もうアカデミアとかマジ無理…という心境であった。そこで仕方なく就職活動を始めたものの、完全にやる気のない態度で挑んだ結果、製薬や食品企業の研究職に落ちまくり、最終的に公務員試験を受けたら何故か受かったのでとりあえず就職した。

地方公務員ではあるが農業試験場というところで一応は公設試験研究機関の研究員という身分であった。農業は畑違いではあったものの、理学部生物学科の出身としては生き物を扱う研究職なので悪くなかった。基本的にフィールドワークだったが、もともと野外で生き物を見るのは好きだった。学会にも行けたしちょっとした論文も書いた。昔から食べたり料理したりが好きなので、新鮮な野菜や果物や米がふんだんに手に入って喜びのあまり5 kg太った。ボーッとしてれば定年まで働けただろう。

じゃあなんで安定した公務員としての生活をフルスイングでドブに捨てて博士課程なんかに進学したかというと、まあ一口には言えず色々な理由が考えられる。

まず、父親が退職していたので博士課程には金銭面の不安があった訳だが、修士の時にやっていた仕事で就職二年目にして筆頭著者として論文を出せたので、学振特別研究員に応募する希望が湧いたこと。

次に、3年働いたら仮に無給で大学院に行っても少なくとも12年くらいは生活できそうな貯金ができる目処が立ったこと(3年と言えば転職するタイミングですね)。福島県南相馬市はあまりにも遊ぶところがなくて金がたまる一方だったのである。

しかし最も大きかったのは次の理由だ。

SNSやら何やらで同級生や先輩後輩を見ていると、大企業に就職したりしてお金をもらって華やかな暮らしをしている人も沢山いる。中には起業とかしちゃった人もいる。別に金持ちじゃなくても結婚した人もいる。子供が生まれてたりもする。しかし私はそういった普通に幸せな人たちの姿を見るよりも、博士課程に進学して貧乏しながら研究している同世代の姿を「羨ましい」と思ってしまった。一度そう言う感情を持ってしまうと、羨ましさを解消する道は、自分が博士課程に進学することしか思いつかなかった。

 

学部のラボも修士のラボもその時には無くなっていたので、新しく進学する研究室を選ぶ必要があった。特に面識も何もないのに研究テーマと教授の若さで(出身研究室がなくなるのは寂しいものだ)今のラボを選んだけど、非常に活気のあるラボだし、研究費は湯水のようにあるし、学振も取らせてもらえたので結果的によかったと思う。私大だし授業料が免除にならないので年間70数万円の学費(私大にしては安い)を払う羽目にはなったが、貯金もあるし普通の学生よりはリッチに暮らせているだろう。

もちろん、仕事を辞めて博士課程に入り直すことにはデメリットも多かった。メリットは経済的な点を除けばあんまりない。分野にドンピシャな企業で研究をしていた人なら大学でも役に立つ事も多いかもしれないが、そういう人はそもそも会社を辞めない気がする。まぁ強いて言えば、働いてお金をもらいながら学振に応募できるので、落ちたらまた来年という選択肢も選べることだが、先延ばしにして良いことはあまりないようにも思う。あと、一度も社会に出ずにアカデミアに居た人に比べて多少は社会常識が身についたかもしれない(要出典)。

おそらくどういう道を選んでも後悔することはあると思う。でも、なるべく納得のできる、自分を許すことができる道を選んでいきたいものである。