高等ムーミンをめぐる冒険

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ゾンビ遺伝子が象の癌を抑制する

 異なる生物でも細胞のサイズはそんなに変わらないため、体のサイズが大きい生物ほど細胞数が多い。すなわち細胞分裂が多くなるため、癌化の危険性が上昇すると考えられるが、実際には象などの巨大な生物で癌の発生は少ない(Petoのパラドックス)。
 その理由の一つとして人類には1コピーしかない転写因子p53が象では20コピーもあることが分かっている。
 今回Cell reportsに出た論文では、ヒトでは1コピーしかない白血病阻止因子(LIF)のオルソログが象では10コピー以上あり、癌化耐性をもたらしていることを発見した。
 これらの重複遺伝子の多くは偽遺伝子であると思われたが、そのうちLIF6はDNA damageによって活性化したp53に応答して発現し、apoptosisを誘導することで癌化耐性を与えていた。
 分子進化的な解析から、LIF6は偽遺伝子がp53の調節エレメントを獲得したことで再機能化した”ゾンビ遺伝子”であると考えられた。
 LIFのオルソログは象やマナティなどの近蹄類で複数コピー見られる。それらの多くは偽遺伝子であるが、LIF6の様に再度機能を獲得したゾンビ遺伝子が体サイズの増加と長寿の関係、すなわちcancer resistanceの増強の進化に寄与しているのかもしれないという進化生物学的にも細胞生物学的にも興奮するお仕事でした。

Vazquez J, Sulak M, Chigurupati S, Lynch V. A Zombie LIF Gene in Elephants Is Upregulated by TP53 to Induce Apoptosis in Response to DNA Damage. Cell Reports 2018; 24: 1765–76.
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(18)31145-8

 

 最近、酵母でゲノム編集により染色体を一本に繋げても平気で生きているという論文が出て話題になったが、おそらく染色体が分割していることによる倍数体や遺伝子重複の生じやすさが適応度、すなわち進化に影響しているのではないかなと思った。