高等ムーミンをめぐる冒険

趣味は生物学とクラリネットです。つぶやき:https://twitter.com/NobuKoba1988 ほどこし: https://www.amazon.jp/hz/wishlist/ls/RXOIKJBR8G4Q?ref_=wl_share

粘膜イムノグロブリンはいかにして進化したか?

粘膜面の分泌型immunoglobulinというのは病原体の排除のために進化したのか?それとも共生細菌の恒常性維持のために進化したのか?という疑問を探るべく、筆者たちはアマゾンの奥地…ではなくニジマスを探索。お魚はIgTというクラスを粘膜面で分泌するらしいのですが、これを除去すると病原体は排除できないわdysbiosisは起こるわ(なぜか魚はIgMが代償しない)で、結局のところ、病原体の排除と細菌叢の恒常性維持は一緒に進化したという結論。なんか微妙な感じですが、哺乳類以外の比較免疫学が好きなので紹介しました。
https://immunology.sciencemag.org/content/5/44/eaay3254

腸管オルガノイド単層培養

Stappenbeckらのcolon organoidをmonolayerにして色々している論文。やはりNIH3T3を下地にしてALI cultureするのが流行のようです。

organoidをmonolayerにすると細胞が密集した島みたいなのが沢山できて「均一にならなくて気持ち悪いな。。。」と思っていたのですが、どうもKI67がよく出ている「flattened crypts」ということのようです。

Long-Term Culture Captures Injury-Repair Cycles of Colonic Stem Cells
. 2019 Nov 14; 179(5): 1144–1159.e15.

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(19)31165-1

助教というお仕事

なんだかんだで博士号を取り(学位審査の2週間前にacceptされて死ぬ寸前だった)、半年ほどポスドクを経て2019年の10月から北陸地方にある某大学医学部の助教として勤務している。今のご時世、学位をとってすぐにポストにつけたのは行幸である。

分野的にはこれまでの免疫学から細菌学へと移ったが、自分のやる研究内容としては大きく変動していない。

仕事的には雑用がある程度増えたが、学生実習とか、ボス不在時の講義とか、試験監督とかそんな程度である。

学生の世話だとかラボ運営は博士課程の頃からある程度やってたのでそんなに代わり映えは感じない。

当時、薬学部の学部生を3人ほど研究指導し、自分の博士論文と並行して卒論一つと修論二つの執筆指導をしていたが、そんなに苦ではなく、むしろ楽しかった。教師になるのは真平御免だと高校の頃には思っていたが、意外と教育というのが好きなのかも知れない。もちろん、教育ばっか重視して研究しないダメ教員も世の中沢山いるので注意したい。まだ31で、自分の研究を切り開けてすらいないのである。とはいえ、医学部なので院生が3人ほど居るだけなのはちょっと寂しいものだ。

学部生が卒研でくるという事はないのだが、2ヶ月程度基礎配属というので研究体験的なイベントがある。これを研究「ごっこ」で終わらせないためにけっこう頑張って指導してたら、発表会で1位になってくれて、これは中々嬉しかった。

免疫老化は野生動物の死を予測する

免疫老化は衛生的な近代人や実験動物で研究がなされてきたが、常に感染の危険に曝される自然状態ではどのような意義を持つのだろうか?

ということで筆者たちは野生のヒツジを26年間にわたって継時的に調査した。

頭数は800頭、血清サンプルは2000に及ぶ。

その結果、ある種の寄生蠕虫に対する血清IgGが加齢とともに減少すること、そしてこの抗体量でヒツジの死(冬に死ぬという)を予測できることを発見した。

Teladorsagia circumcinctaという線虫に対する抗体を見ている。野生と家畜、どちらのヒツジにおいても重要な寄生虫らしい。

Figure2つ、わずか3ページでScienceというセクシーな論文。

労力というか根気がすごい。

Froy et al. Senescence in immunity against helminth parasites predicts adult mortality in a wild mammal. Science365, 1296–1298 (2019).
https://science.sciencemag.org/content/365/6459/1296 

腸内細菌と自己免疫疾患(APS編)

近頃、腸内細菌(腸管免疫)と自己免疫疾患に関する総説を書いていたので細菌と宿主の分子相同性とかに興味がある。

 

この論文では腸内細菌と自己免疫疾患の関係を調べるためのモデルとして、抗リン脂質抗体症候群APS)をチョイス。

自己抗体のエピトープとの分子相同性からグラム陽性酪酸産生菌Roseburia intestinalis(この菌のDNAメチルトランスフェラーゼの予測抗原部位と配列が一致。構造生物学って偉大ですね)に当たりをつけて、患者の糞便をIgA-seqしたらやっぱりR. intが健常人より多量にくっ付いていた。

R. intをマウスに経口免疫すると、ヒトのβ2-glycoprotein I(自己抗体の標的)に交差する抗体が誘導されるとともに、APSの病態である血栓を発症。

綺麗に菌の投与で自己免疫疾患を再現していてすごいですが、総説書いてる最中に出てくれてればなお良かったです。

なおR. intはヒトの常在菌ですがAPSの発症にはHLAの多型が関与しているらしい。

Ruff, W. et al. Pathogenic Autoreactive T and B Cells Cross-React with Mimotopes Expressed by a Common Human Gut Commensal to Trigger Autoimmunity. Cell Host Microbe 26, 100–113.e8 (2019).
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1931312819302483?via%3Dihub

エプスタイン・バール・ウイルスと多発性硬化症

Multiple sclerosis (MS)の患者からAnoctamin 2 (Ca2+-activated Cl− channel, CNSに発現)に対する自己抗体が検出されるらしいのですが、Epstein-Barr virus(EBV、成人はほぼ全員感染、腫瘍や自己免疫疾患に関係)のEBV nuclear antigen 1 (EBNA1)との間でMolecular mimicryが認められるとのこと。

自己抗体産生はHLA多型に関係するらしい。EBVに対する抗体価はMS発症に強く相関する事が知られており、そのメカニズムかも?

Tengvall, K. et al. Molecular mimicry between Anoctamin 2 and Epstein-Barr virus nuclear antigen 1 associates with multiple sclerosis risk. Proc National Acad Sci 116, 16955–16960 (2019).
https://www.pnas.org/content/116/34/16955